過払い金|破産者への強制執行は有効か?

医師
本件
バイパス

主文

原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。
被上告人の請求を棄却する。
訴訟の総費用は、被上告人の負担とする。

理由

上告代理人前田修の上告理由について
一 原審は、(1) 上告人は、被上告人に対して、破産債権となるべき四六七万二〇六五円及びこれに対する昭和五九年一二月四日から完済までの年六分の割合による金員の支払請求権を有していた、(2) 被上告人は、鳥取地方裁判所において、昭和六〇年八月二一日午前一〇時、破産宣告を受け、同時に、破産廃止の決定を受け、右決定は確定した、(3) 被上告人は、同月二八日、同裁判所に対して免責の申立をし、昭和六一年七月四日、免責の決定を受け、右決定は同年八月八日の経過により確定した、(4) 上告人は、鳥取地方裁判所において、前記請求権に係る債務名義により、同年四月七日、被上告人が右破産宣告及び破産廃止の決定の後に訴外大下隆に対して取得した損害賠償請求債権に対する差押命令を得て、同年七月一六日、弁済金として五〇八万〇六四六円の交付を受けたとの各事実を適法に確定した上、右事実関係のもとにおいて、破産者の申し立てた免責の審理中であっても、破産債権者は破産者に対して破産債権に基づき強制執行をすることができるが、破産法(以下「法」という。)三六六条ノ一二本文の規定するところ及び免責制度は誠実な破産者を経済的に更生させ人間に値する生活を営む権利を保障することなどを目的としているという法の趣旨にかんがみ、免責の効力が破産廃止決定の時まで遡及する旨の規定がなくても、免責の決定が確定したときは、破産債権者は右強制執行により利得した弁済金を保持する法律上の原因を欠くに至るとして、上告人は被上告人に対して、前記弁済交付金及びこれに対する返還請求の日の翌日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うよう命じた。
二 しかし、原審の右判断は、これを是認することができない。
その理由は、次のとおりである。
すなわち、破産宣告と同時に破産廃止決定がされ、右決定が確定した場合には、破産債権に基づいて適法に強制執行をすることができ、右強制執行における配当等の実施により破産債権に対する弁済がされた後に破産者を免責する旨の決定が確定したとしても、右強制執行による弁済が法律上の原因を欠くに至るものではないと解するのが相当である。
けだし、破産廃止決定が確定したときは破産手続は解止され、この場合に免責の申立がされていたとしても、破産宣告による破産債権に対する制約が存続することの根拠となり得べき規定は存しないから、破産宣告に基づく破産債権に対する制約は将来に向かって消滅し、債権者は破産債権に基づいて適法に強制執行を実施することができることとなるところ、右強制執行における配当等の実施により破産債権への弁済がされた後に破産者に対する免責の決定が確定したときは、破産者は破産手続による配当を除き破産債権の全部についてその責任を免れることとなる(法三六六条ノ一二本文)が、右決定の効力が遡及することを認める趣旨の規定はなく、右弁済が法律上の原因を失うに至るとする理由はないからである。
なお、破産手続における配当の後に破産終結決定があり、速やかに免責の許否が決せられる場合等、破産手続の解止から免責の決定が確定するまでに破産債権に基づく強制執行がされるいとまがないときは、破産債権は破産手続によってのみ行使することが許され(法一六条)、破産宣告後に破産者が取得した財産(以下「新得財産」という。)は破産債権に基づく強制執行の対象となり得ないから、免責を得た破産者は新得財産を保持することができる結果となる。
しかし、これは、破産手続の明確化を図るため、破産債権の引当てとなるべき破産財団の範囲を破産宣告時の破産者の財産に限定した(法六条一項)ことによるものであって、破産宣告がされる時点がいつになるか、すなわち、ある財産が破産財団又は新得財産のいずれに属することとなるかは破産者の意思のみによって左右されるところではないから、免責制度がこのようにして新得財産に属することとなった財産を破産者に保持させることをもその目的としていると解する理由は見出し難い。
したがって、免責決定が確定した場合において、免責の審理中にされた強制執行による弁済を有効であるとすることが免責手続の趣旨に反するものと解することもできない。
三 そうすると、上告人の本件弁済金の受領をもって不当利得に該当するとして、被上告人の請求を認容し、右弁済金の返還を命じた一審判決及びこれを是認した原判決には、免責に関する法の規定及び民法七〇三条の解釈適用を誤った違法があり、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れず、一審判決は取り消すべきであり、前記説示に徴すれば、被上告人の請求は棄却すべきものである。
よって、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

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